エクリプス クロス
エクステリア チーフデザイナー
吉峰 典彦

1999年三菱自動車工業デザイン本部入社。2013年 MITSUBISHI Concept XR-PHEV エクステリアデザインを担当。その後エクリプス クロスのエクステリアデザインを担当。2015年より、欧州スタジオにてシニアチーフデザイナーとして活躍。

モータージャーナリスト森口 将之

自動車専門誌の編集部を経て独立。雑誌、インターネット、ラジオなどで活躍。趣味の乗り物である旧車の解説や試乗も多く担当する。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員。

エクリプス クロスの歴史は始まったばかり。そう思う人が多いだろう。しかしこのクルマには、実は長い助走期間がある。2013年の東京モーターショーで発表した「MITSUBISHI Concept XR-PHEV」、2年後のジュネーブ・ショーでお披露目された「MITSUBISHI Concept XR-PHEVⅡ」が、エクリプス クロスとして結実したという流れだ。
この進化にエクステリアデザイナーとして関わり続けてきた吉峰典彦氏に、モータージャーナリスト森口将之が話を聞いた。

SUVやクーペの価値観を変えたい
そして生まれたのがエクリプス クロス

吉峰:「当初、SUVとクーペの融合というテーマに沿ってデザイナーたちが絵を描いていたのですが、多くの人は普通のクーペを考えていて、カッコイイけれど後席や荷室が狭そうでした。三菱がやるなら、まったく新しい造形でSUVやクーペの価値観を変えたい。そう考えていたとき、大胆なウェッジシェイプを取り入れればルーフを低めなくてもクーペに見えることを思いついたのです」

コンセプトは当初から一貫していた。VIBRANT & DEFIANT、日本語に訳すと「躍動と挑戦」 になる。考え方そのものは2013年から不変であるという。

吉峰:「まずはパッと見ただけで分かるカッコよさを形にするべく、アスリートのフォルムを連想しました。具体的にイメージしたのは、クラウチングスタートから走り出す瞬間。これがVIBRANTです。同時に後席の居住性をきちんと確保しながらクーペスタイルを維持していくこともテーマとしました。こちらがDEFIANTになります。この2つの意味をクルマに込めました」

三菱らしさを意識した結果生まれた
筋肉質でありつつ整然とした美しさ

直線基調のフォルムは三菱らしさを意識した結果でもあった。たしかに三菱の歴史を紐解いていくと、直線的でシンプルだけれどスポーティなクルマが多かった。それは吉峰氏が子供の時に街で見た三菱車の印象と合致していた。

吉峰:「幾何学的なカッコよさ。そんな三菱車に憧れて入社したので、意識はしました。ただ昔のギャランやコルトは、ボディラインは直線ですが、断面にはけっこう抑揚があった。これもまた三菱らしさだと思っています。だから面構成は折り目正しく、面には表情をつけることで、筋肉質でありつつ整然とした美しさを心がけました」

しかし、一筋縄では行かなかったようだ。まずフロントについては、力強いパフォーマンスとプロテクションの安心感を表現したダイナミックシールドを、さらに進化させることになった。

吉峰:「一貫性のある顔作りを心がけました。機能を研ぎ澄ませた結果ということでヘッドランプを細くし、デイタイムランニングランプ(DRL)をLEDで入れることで、目つきを際立たせるとともに安全性や視認性を高めました。そしてターンシグナルランプはフォグランプとともに切り離して下に分けることによって、他車にしっかり合図を出すという機能を大事にしました。ただの装飾にならないことを心がけたのです」

ドアハンドルのスペシャリストと共に生み出した
彫刻を思わせるキャラクターライン

エクリプス クロスの見所はサイドにもある。まずはフロントドアからリアフェンダーにかけての彫刻を思わせるキャラクターライン。最近のクルマは前から後ろまでラインをつなげることが多いだけに、とにかく印象に残る。

吉峰:「基本はシンプルでありたいと思いました。そのシンプルな中に、刀などでズバッと切れ込みを入れる。こうして生まれた造形には塊としての強さがあると思うんです。それに鋼の強さを連想する硬質でカチッとした造形は三菱らしいとも思っています。昔のスタリオンもライバルのスポーツカーとは一線を画していました。少年時代の原体験も関係しているかもしれません」

この硬質な表現にはドアハンドルも貢献している。洗練された造形を保つために、新規開発したというのだ。

吉峰:「社内にはドアハンドルのスペシャリストがいます。操作性を確保しながらシャープな線を強調するにはどうすればよいか相談しました。よく見ると少し下を向いていることに気づくと思います。意外と操作しやすく、かつ表面がシャドーになるのでキャラクターラインと一体感が出せました。ボディとの融合が実現できていると思っていただけるとデザイナー冥利に尽きます」

融合と言えば、このシャープなラインとSUVらしいフェンダーの膨らみの合わせ技もエクリプス クロスの見所だ。複雑な面の組み合わせを見て、よく生産現場の方が受け入れてくれたものだと感心した。

吉峰:「昔ランエボを担当していた時は、生産現場の方とよく喧嘩しました。しかし本プロジェクトあたりから鈑金や樹脂を担当する人たちが『自分たちもやりたい』と言ってくるようになったのです。それでもフロントフェンダーはかなり苦労しました。歩行者保護など最新の安全基準をクリアしようとすると、似たような形になってきてしまうからです。その中で膨れた感じにせず筋肉質に見せるために、解析担当の人と毎週のように話をしながら、ギリギリの線を求めていきました」

クーペらしいフォルムを追求して生まれた
ルーフへのこだわり

エクリプス クロスは、普段あまり見ることのないルーフにも秘密がある。前席の上は中央が窪んで左右が膨らんだ、いわゆるダブルバブルのスタイル。ところが後席頭上では逆に、中央が盛り上がり左右を落とした断面に変わっている。ここまで凝ったルーフを持つ国産車は珍しい。

吉峰:「ルーフ前方は中央を下げ、左右を上げて、前席のヘッドクリアランスに余裕をもたらしつつ空力性能を高めています。単純にダブルバブルにすると他車と似てくるので、シャープに仕上げて三菱らしさを出しました。後方はルーフモール付近を落としてクーペらしいフォルムを描きながら、後部座席付近のラインは高さをキープして頭上空間を確保しています。ルーフレールを付けるとこのラインが見えなくなって、よりクーペっぽく見えるようになるのです」

現場とギリギリまで詰めて実現
後席スライドを入れたクーペスタイル

ここまでルーフラインにこだわった理由として、最初に話題に出た居住性との関係があった。主に欧州からの要望として、後席のスライド機構が欲しいという声があったのだ。リアゲートの開口部は後席をスライドした位置で決まるので、そこまではルーフを伸ばさねばならない。吉峰氏はクーペらしいルーフラインを目指していたので二律背反である。 

吉峰:「あるとき黙って少しシートを前にずらしたら、『おい15mm出しただろう』と怒鳴られてしまいました。ところがその後、レイアウト担当の方が「ここ5mm縮められますよ」と言ってくれたりして。そんなやり取りの末に、後席スライドを入れたクーペスタイルが実現できました」

そしてリヤ。上下2枚ガラスとH型リアコンビランプという構成は、開発当初から不変だが、量産となるとかなりコストがかかる構造であることも事実。当初は賛同者が少なかったというが、そこをどう解決したのだろうか。

吉峰:「ここはコストを抑えてもお客様に訴求できるレベルになるけれど、絶対に譲れないというプライオリティをしっかり決めて議論しました。それが結果としてデザインの強みになりますから。吊り下げ式のリアワイパーのように、設計側の若手から採用を後押ししてもらったこともありました」

アフリカの砂漠も走破できることこそが
三菱自動車が考える本格SUV

クーペらしく見せるためにさまざまな技を取り入れつつも、悪路走破性をはじめSUVとしての基礎体力を大切にしてきた三菱のブランドポリシーとして、エクリプス クロスは単なる街乗り用のクロスオーバーにするつもりはなかった。S-AWCを組み込んだ電子制御4WDとしたメカニズムからも分かるとおり、あくまで本格SUVである。それは路面から床下までのクリアランスを十分に取り、前後バンパーの張り出しを短くして、障害物の踏破にも考慮したボディからも伺える。ここにも三菱ならではの想いがあった。

吉峰:「アフリカの砂漠やアジアの山奥に持って行った時に『なんだ三菱はこんなものか』と言われては困ると、試験部門の人から言われました。デザイナーとしてはお洒落にしたいから、オーバーハングを伸ばしたり車高を低めたりしたいという気持ちもありましたが封印しました。それにアプローチアングルなどを考えながら描いていくと、自然と三菱っぽくなっていくんです。やはり機能から詰めていくというピュアな部分は守らなければいけないと感じました」

MITSUBISHI DESIGNのフィロソフィーにこめられた
「形は機能に従う」クルマづくり

話の中で何度も出てきた言葉に「フォーム・フォローズ・ファンクション(形は機能に従う)」があった。パジェロがそうであるように、三菱は昔から真面目に機能を追い求めたクルマづくりに取り組んできた。

エクリプス クロスが三菱そのものに見えるのは、表面的な造形だけでなく、精神的な部分まで機能重視の思想がしっかり注ぎ込まれているからだろう。吉峰氏によれば、今回は試行錯誤の部分もあったがこの経験から更にステップアップし、三菱のデザインはもっと魅力的になると確信しているという。夢は尽きないという最後のひと言が印象的だった。